政府や自民党の関係者から、金利のある世界への変化を求める指摘があるのは当然だ。政府の経済政策の方針が、企業を貯蓄超過から投資超過に戻すことにあるからだ。
しかし、金利のある世界への変化は、企業の貯蓄超過から投資超過へのシフトに準じるペースで緩やかに進行するのが政府のシナリオだ。目先の利上げを支援するものではない。政府は、企業が貯蓄超過から投資超過へシフトしていないため、構造的デフレ圧力でデフレに後戻りする可能性が否定できず、デフレ完全脱却の判断はできないでいる。
l 日銀は、企業の貯蓄超過という構造的なデフレ圧力を軽視し、高齢化などによる人手不足の賃金上昇圧力を中心に物価予想を組み立てている。
企業の行動に人手不足が強く影響しているのであれば、賃金を含めた支出が増え、労働分配率も大きく上昇することにより、理論的には企業貯蓄率は下がるはずであるが、逆に上がってしまっている。企業の貯蓄超過という構造的なデフレ圧力を軽視していることで、日銀の物価予想は下振れリスクが大きいとみられる。
l 内需はまだ弱いため、米国の景気減速と円高の下押しの力をオフセットはできず、コアコア消費者物価指数の前年同月比は2025年半ばには1%程度まで縮小していくとみられる。
政府の経済政策の方針と整合的な金融政策を求められ、日銀が中立金利に向けた本格的な利上げ局面に入れるのは、グローバルな循環的な景気と内需の回復によって、企業貯蓄率がしっかり低下していることを確認でき、日銀の成長・物価シナリオの実現の確度が十分に高まる2025年後半になるだろう。2025年後半になるだろう。
政府の公式の経済政策の方針は、企業を貯蓄超過(異常なプラスの企業貯蓄率)から投資超過(正常なマイナスの企業貯蓄率)に戻すことで、コストカット型経済とデフレから完全脱却し、成長型の新たなステージに日本経済をシフトしていくことだ。
企業の資金需要がない状態から、回復した状態にシフトすることで、貨幣経済の膨張の力を利用して、デフレから完全脱却する。企業の資金需要がないのであれば、実質金利はマイナスが定位置だろう。
しかし、企業の資金需要が回復するのであれば、実質金利はマイナスを脱すると考えられる。マーケットは、今年の後半の日銀の本格的な利上げサイクル入りを予想し、拙速な利上げによって企業活動が抑制されることで貯蓄超過が残り、政策金利は1%程度までしか上昇せず、実質マイナス金利を脱せず、コストカット型経済とデフレからの完全脱却に失敗することを織り込んでいた。
政府は、そのようなマーケットの織り込みを誘発した、目先の利上げに全力集中し、デフレ完全脱却後の中立金利の議論から逃げて過度な円安を招いてきた日銀の情報発信に不満を持っていたとみられる。
政府や自民党の関係者から、金利のある世界への変化を求める指摘があるのは当然だ。政府の経済政策の方針が、企業を貯蓄超過から投資超過に戻すことにあるからだ。
しかし、金利のある世界への変化は、企業の貯蓄超過から投資超過へのシフトに準じるペースで緩やかに進行するのが政府のシナリオだ。目先の利上げを支援するものではない。政府は、過剰な円安を止めるため、利上げはなしで、日銀が金融政策の先行きを示すことによって、スティープなイールドカーブを求めていたとみられる。
景気を冷やすリスクのある利上げには消極的であった。景気と円安への対応を天秤にかけてきた。短期金利の引き上げは、景気を過度に冷やすリスクが大きく、イールドカーブのスティープ化は楽観的な見通しとの親和性も高いため、景気への下押しの影響を抑制しながら、円安を止める効果がある。
企業貯蓄率がまだプラスで、政府の目指す低下ではなく、グローバルな景気減速で上昇している局面での利上げは、日銀法で課されている政府の経済政策の方針と整合的な金融政策運営ではない。
7月の日銀の拙速な利上げによるマーケットの大混乱は、日銀が政府との連携を軽視した結果であると結論づけられる。政府は、企業が貯蓄超過から投資超過へシフトしていないため、構造的デフレ圧力でデフレに後戻りする可能性が否定できず、デフレ完全脱却の判断はできないでいる。
日銀のコアコア消費者物価指数(除く生鮮食品・エネルギー)は、2024年度が+1.9%、2025年度が+1.9%、2026年度が+2.1%となっている。インフレ率は2%の物価安定目標の近辺で推移していく予想だ。
金融緩和の度合いを調整することによって、2%の物価安定目標から上振れずに、安定して推移していくというのが日銀のシナリオなのだろう。
7月のコアコア消費者物価指数は前年同月比+1.9%と、既に物価安定目標を下回り始めており、8月は更に伸び率が縮小する可能性が高い。日銀は、企業の貯蓄超過という構造的なデフレ圧力を軽視し、高齢化などによる人手不足の賃金上昇圧力を中心に物価予想を組み立てている。
企業の行動に人手不足が強く影響しているのであれば、賃金を含めた支出が増え、労働分配率も大きく上昇することにより、理論的には企業貯蓄率は下がるはずであるが、逆に上がってしまっている。
企業の貯蓄超過という構造的なデフレ圧力を軽視していることで、日銀の物価予想は下振れリスクが大きいとみられる。内需はまだ弱いため、米国の景気減速と円高の下押しの力をオフセットはできず、コアコア消費者物価指数の前年同月比は2025年半ばには1%程度まで縮小していくとみられる。
政府の経済政策の方針と整合的な金融政策を求められ、日銀が中立金利に向けた本格的な利上げ局面に入れるのは、グローバルな循環的な景気と内需の回復によって、企業貯蓄率がしっかり低下していることを確認でき、日銀の成長・物価シナリオの実現の確度が十分に高まる2025年後半になるだろう。
植田日銀総裁は、衆院財政金融委員会で、内外の金融資本市場は引き続き不安定であるとして、「当面は動向を極めて高い緊張感を持ちつつ、注視していく」と述べ、政府との連携を強調し、利上げを急がない姿勢を見せた。自民党は、総裁選と、その後の衆議院の解散の可能性などの政治イベントに注力していて、日銀に当面は波乱を起こさない冷静な金融政策運営を強く求めているとみられる。