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実質賃金は27カ月振りにプラス転化

8月23日に公表された6月の実質賃金確報値は、事業所規模5人以上の現金給与総額ベースで前年比+1.1%と、速報値(同+1.1%)から下振れることなく、27カ月振りのプラス転化となった(図表1)。これは、物価(持ち家の帰属家賃を除く消費者物価指数総合)が同+3.3%の上昇となる中、名目現金給与総額が同+4.5%と物価の伸びを上回ったためである。

もっとも、この名目現金給与総額の伸びについては、6月にボーナス支給を行う企業が増加したことによりボーナスが(6月にボーナスを支給する企業が少なかった)昨年と比べて大きく伸びたことが大きく影響している。このため、例年多くの企業がボーナス支給を行う7月も引き続き高い伸びが維持できるかはやや不透明である。加えて、7月と8月は、電気代およびガス代の補助金が一旦なくなることから、実質賃金の「デフレーター」である持ち家の帰属家賃を除く(=エネルギー価格を含む)消費者物価指数総合が一旦+0.5%ポイント程度押し上げられることも、実質賃金の下押し要因となる点は要注意である。

実質賃金は少なくとも9月以降は堅調に推移する見込み

とはいえ、①賃上げができなかった中小零細企業が夏のボーナスを積み増すことが期待できるほか、②9月には3%台半ばの春闘賃上げがフルに顕現化することに加え、③今年4月並みの電気代およびガス代補助金も8~10月に復活する(=9~11月の消費者物価を押し下げる)ことから、実質賃金は、夏場に一旦弱含んだとしても、少なくとも9月以降は前年比プラスで推移していくことが見込まれる。

実質雇用者報酬も11四半期振りにプラス転化 

4~6月期の実質雇用者報酬も、2021年7~9月期以来、11四半期振りにプラスとなった(図表2)。今後、実質賃金の堅調な推移が見込まれることを踏まえると、実質雇用者報酬も着実な回復が持続すると見込まれる。

個人消費はまだコロナ禍前を下回るも底堅く推移

実質ベースの消費活動指数は、足元6月時点でコロナ禍前の2018年平均を▲3~4%程度下回っているものの、実質雇用者報酬の回復を受けて、緩やかに改善している(図表3)。また、形態別に国内家計最終消費支出をみても、家計の節約志向や選択的支出の強まりを背景に非耐久財やサービスが幾分弱めであるものの、漸くコロナ禍前の2018年平均を▲1%程度下回る水準まで回復してきている(図表4)。今後も、実質雇用者所得の着実な回復が見込まれるもと、個人消費は力強さこそ期待できないものの、腰折れることなく、底堅く推移する可能性が高い。

堅調な賃金の背景はタイトな労働市場 

  こうした堅調な家計セクターへの分配の背景としては、労働市場の引き締まりが挙げられる。

  ベバリッジ曲線をみると、労働市場は、雇用のミスマッチの解消を伴いつつ、2021年以降、足元の2024年4~6月まで逼迫した状況が継続している様子が窺われる(図表5)。また、構造的失業率である均衡失業率と実際の完全失業率との乖離から算出される需要不足失業率をみても、 2022年以降マイナス(=労働需要が超過)となっており、労働市場が逼迫している様子が窺われる(次頁図表6)。

  労働市場の逼迫を背景に、(少なくとも9月以降は)実質賃金が堅調に推移する見通しが立ってきたことを踏まえると、日本銀行は、展望レポートで示した見通しに照らして、物価と賃金の好循環に対する確度の高まりや、所得から支出への前向きな動きに対する自信を深めている可能性が高いと推察される。

政策金利引き上げは概ね半年毎に+25bps程度

日本銀行が物価と賃金の好循環への自信を深めているとすれば、市場への影響に配慮しつつ、半年毎に+25bps程度のペースで政策金利を引き上げていく可能性が高いと考えられる。

植田総裁は、7月31日の政策決定会合後の記者会見の席上において「0.5%は壁として認識していない」、「現在の政策金利は中立金利の水準までまだ相当の距離がある」と述べ、0.5%を上回る水準への利上げが視野に入っていることを示唆した。

その後、8月初頭に米国で弱めの経済指標の公表が続いたことを契機に株式市場が乱高下したことを踏まえ、内田副総裁は、8月7日の函館市金融経済懇談会における挨拶で「こうした市場の変動の結果として、見通しやその上下のリスク、見通しの確度が変われば、当然金利のパスは変わってきます」、「金融資本市場が不安定な状況で、利上げをすることはありません」と発言した。植田総裁の発言と比べて内田副総裁の発言は、一見、ハト派的に聞こえるかもしれない(実際、市場ではハト派的な発言として受け取られた)。しかしながら、筆者としては、内田副総裁は「市場が不安定なタイミングで無理な利上げを強行することはない」と当たり前のことを述べているに過ぎず、政策金利引き上げに対して特段ハト派な発言を行ったとはみていない。ただし、内田副総裁は同講演において、「わが国の場合、一定のペースで利上げをしないとビハインド・ザ・カーブに陥ってしまうような状況ではありません」と述べていることに鑑みると、展望レポート公表の都度(=四半期毎に)25bpsずつ利上げしていくことは考えていないのではないかと推察される。すなわち、次回の利上げは9月ではなく、12月短観の結果を踏まえてからではないかと考えられる。なお、Evercore ISIの中央銀行戦略チーム責任者であるクリシュナ・グーハ副会長は、日本銀行の次回利上げタイミングについて「来年1月あるいは、早ければ12月」と述べている。

以上を踏まえると、日本銀行は市場の安定性に配慮しつつ、実体経済や物価の条件が整えば、概ね半年毎に+25bpsというモデレートなペース、具体的には、今年12月に0.5%、来年6月に0.75%、来年12月に1.0%まで政策金利を引き上げていく可能性が高いと推察される(図表7)。また、やや長めのスパンで考えると、①人口減少が続くわが国において長期的に持続可能な物価上昇率は1%程度、②長期均衡近傍での自然利子率は▲0.25~0.0%程度と見込まれることから、当面のターミナルレートについては、1.0%程度と考えられる。

About Post Author

Kenzo Noguchi

野口 賢三  Kenzo Noguchi 1989年福岡市出身、東京都在住。 国家公務員、デイトレーダー 投資歴7年、外国為替、暗号資産、日本株式等 夢は 「相場を動かせるクジラになること」 Twitter:https://twitter.com/KenzoNoguchi Facebook:https://www.facebook.com/kenzo.noguchi.71/ YouTube:https://www.youtube.com/channel/
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